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オタクの生きざまなど

【ガチネタバレ版】ワンモア第三話感想

PCから更新しているので気が付いていませんでしたが、ふとスマホからブログを見たらハズキルーペばりに「字が小さくて見えない!!!!!」となってしまったため過去記事含めてサイズを変更してみました。中高年同志の皆様大変失礼いたしました。

 

そんなわけで三話です。

 予告にもあった通り、風間メイン回でした。なお今回は劇中の時系列は比較的短期間で、5月27日水曜日から6月3日水曜日までのおよそ一週間の出来事(回想シーンを除く)が描かれています。

前回までのエピソードの合間にところどころ挿入されていましたが、風間が特定の女子生徒を待っていると思われるシーンから始まります。ちなみにこの日が5月27日です。

轟高校は全日制と定時制が同居しているので、教室を共有しています。風間のいる定時制一年A組の使用している教室は、全日制の三年A組となっています。風間が普段使っている席に座っている山崎志保という生徒が中心となるサブキャラです。偶然同じところを使っているというよりは、定時制の方はどこに座っても自由なスタイルという感じがするので風間があえて席を探し当てて使っているのかもしれません。

長年引きこもりをしている風間は、人とのコミュニケーションにやや問題を抱えているようです。ほとんどの場面でヘッドホンをつけたままスマホを見ていて、誰かと目を合わせたり会話をしたりすることを避けています。(ところで、このヘッドホンは聴覚過敏対応のイヤーマフ代わりなのかと最初は思っていましたが、特にそれを裏付けるような描写がないので伊達マスクのような使い方なのかもしれません)一話と二話では全くセリフがありませんでした。

冒頭から出てくる山崎志保のことを好きになってしまったものの、適切な対人関係の築き方を忘れてしまっている風間が騒動を起こしてしまいます。声をかける勇気がないので偶然を装って(これもかなり不自然な気はしますが、そこに気が付かないところにも下手さが見て取れます)校舎の前で待ち伏せてすれ違うのを日課にしています。この時点でもかなりグレーゾーンな感じではありますが、風間はさらに山崎の姿を勝手にスマホで撮影してしまいます。つまり盗撮ですね。山崎の友人である相沢愛に撮影しているところを目撃されたことをきっかけに周囲の知るところとなります。

翌5月28日木曜日、校舎の下駄箱のところでスマホを構えた風間を全日制の男子生徒が取り押さえ、盗撮をしたのではないかと迫ります。

ちなみにこの相沢は以前から風間の挙動を怪しむようなそぶりを見せていました(一緒にいた男子生徒は当初気が付いてない様子でした)が、最初に気が付くのが女子という部分は古に女子高生をやっていた者として思うところがありました。学生服を着ている若い女は本当に驚くほど高頻度で性犯罪や嫌がらせに会います。そしてたいてい相手や周囲は「わざとではなかった」「偶然だった」「悪気はなかった(善意のつもりだった)」「気のせいではないか」という態度を取りますが、やられているこちらとしてはわざとかどうか、親切心かどうかすぐにわかります。被害者・経験者とそうではない人の間で、見えている世界があまりにも違うのが現実です。

全日制の男子生徒二人と共に風間に詰め寄るシーン含め、『不器用な若者の一時の過ちをたてに嫌がらせする悪ガキ』というアングルのように描かれていますが、全日制の生徒達のお行儀の悪さを差し引いてもちょっと風間に同情的すぎるかなとは感じてしまいました。この場面は警察が入ってその後の更生にもっていくぐらいでもいいんじゃないかなと…。ドラマを動かすためとはいえ、この全日制の生徒を露悪的に描きすぎることが少しマイナスになってしまっている印象は正直あります。いわゆる古き良き思い出の昭和感動ポルノではなく、2020年の人間ドラマになって欲しいので。

一方で当事者である山崎はと言うと、盗撮されたことをはっきりさせることよりも、定時制の生徒とは関わりたくないという態度を明らかにします。現役の学生時代にちゃんとしていなかった社会に甘えている人たちの通う場所だからというのです。個人的には、こちらの方が現代人のピュアな差別心としては非常にリアルなように感じました。貧困などの困難は自己責任なので自分たちに迷惑をかけないでほしいというやつです。最近も車いすユーザーとバリアフリーについて話題になりましたが、前提条件を無視した実力・平等主義や経済合理性などを持ち出してマイノリティの負担を無視し、「わきまえる」ことを要求してくる人々は、わかりやすい嫌がらせをしてくる人よりもずっと厄介です。

またこの校舎の入り口で揉めている場面で水野と地井の違いがよりはっきりします。困っている風間の姿を見てためらわず割って入り、無実を信じようとする水野と、放っておけと言わんばかりに後ろで見ている地井から教師としてのスタンスの違いを見てとれます。この後、盗撮を疑われた風間にやっていないならスマホの中身を見せるようにと地井は声をかけますが、それは風間を信頼しているからではなくて、多分やってるだろうなと分かっているしやっていたところで自分の感知するところではないと思っている態度です。

実際に風間は盗撮していましたし、それがクラスの中でウヤムヤになってしまったのは少々残念なところでしたが、ともかく風間が山崎への恋心を抱いていることまでが明らかとなり、そういうやり方ではなく正面からコミュニケーションをとるようにとクラスメイトが促すことで少し事態が前に進み始めます。好きな人がいつまでもいるとは限らないから思うことがあれば伝えた方がいいよ、と話す空田の言葉には重みがあります。しかしこの時点では風間を動かすにはいたりません。

同時に風間家ではこれまで登場しなかった風間の兄とのエピソードが進行しています。すでに家を出ていると思われる兄が、父の経営する病院の後を継ぐことになり一時的に実家に戻ってきていました。兄も父親同様に強い調子で風間を叱責し、引きこもりをやめるように迫りますが、こちらは父親のように「早く社会に出て『まとも』な大人になれ」ということではないようです。できる兄として親の期待を受け、医者になって後を継ぐというルートがあらかじめ決められてしまっている(そして、それを裏切れない)ということへの苦悩が吐露され、お前は自由に生きろ、だからこんなところで時間を浪費しているのは勿体ないというニュアンスで語られます。ずっと時間が止まったままでいいのかと兄は言いますが、家族にとっても風間はずっと高校生のままになってしまっていて、どうしていいかわからない状態なのでしょう。結果的に兄の言葉をきっかけに、風間は山崎に手紙で想いを伝えることを決意します。過去には仲が良かったこともほのめかされていたので、身内である兄の訴えが強く響いたのかもしれません。

ところで風間が手紙をしたためるシーンは手元が吹き替えの方のようでしたが、ここは橋本くんの字でも良かったのでは…とは思ってしまいました。読みやすさよりも、人となりが文字に表れていることの方が重要ではないかと感じます。せめてもう少し「男の子の字」っぽい風になっていてもよかったなという気がしました。左利きという制約が出るのでキャスティングが難しかったのかもしれませんが。

この話はここでは終わらず、風間の書いた手紙がゴミ箱から見つかるという事件が起きてしまいます。これが6月1日月曜日です。直前に、山崎が見つけて読んでいた手紙に相沢が気が付いて取り上げるシーンが挿入されています。相沢は風間に悪い印象を抱いていますので、こんな手紙にまともに取り合うことはないというような話をして、山崎もその場の雰囲気で従った…などの流れがあったと推測されます。ここまで相沢は悪いことをそそのかす悪いやつという印象を持たせる描かれ方をしていますが、今回の話に限って言うなら友人がストーカーや盗撮被害にあった女子生徒の行動として限りなく許容範囲ではないかとは思います。

手紙を捨てられてしまったことを必死になぐさめようとする定時制のクラスメイトを前に、風間は初めて感情を爆発させます。お前らみんなバカだ、クズだ、と風間は叫びますが、本当にそう思っていたというよりは自分の中の感情を言い表すための適切な表現がわからず、今引き出せる中で最も強い言葉をとりあえず使ったという感じもします。実際に死にたい訳ではないけれども悩み事のある子どもが死にたいということがあるのと近いかもしれません。

そんな風間の様子に一番に口を開いたのは水野でしたが、そんなことを言うなんて良くないよなどと諭すのかと思いきや、「喋った!みんな聞いたよね!?」と明るく言い放ちます。そこに、感慨深そうに空田が「そんな声だったんだね」と続けます。苦労を重ねている空田が動じていないのは納得がいきます。水野の反応は正直意外に感じました。優しい言葉をかけたのにいきなり怒り出して罵倒した、ということよりも、今まで人と話をしなかった風間が自分の声と体で気持ちを表現した、ということをポジティブに評価したのです。いくら前向きな人間といえど、いきなり大声で怒られればびっくりしてしまうし、萎縮してしまうものだと思います。前回の感想で「水野は人生経験が少ないのではないか」と書きましたが、むしろ逆にあまりにも修羅場を通りすぎていて達観した結果のスーパーポジティブではないかという疑惑も出てきます。

激高した風間に向かって、もっと何かあるだろう、言え、と火村が凄み、ここでドラマのテーマにも通ずる「大人が初恋して、何が悪い」と風間が答えてこの騒ぎが終了します。このセリフを風間に言わせたくて逆算してこのような話になったのかなという感じもしました。

最後の図書館のシーンが6月3日水曜日です。風間と偶然すれ違った山崎が気まずそうな様子を見せ、手紙を捨てたことは本意ではなかったことがほのめかされます。風間が返却棚に置いた本が、まさに山崎の探していたものだとわかり、同じ価値観を持った人間だという気づきを得る描写で第三話が終了します。普通ではない、能力や努力が足りない「向こう側」の人だと思っていた相手が、自分と同じような考えがありさまざまな事情を抱えた「こちら側」の人だとわかる過程はとても良いと思いました。だけに、ストーカー被害のくだりを「若気の至り」とか「不器用な人間のほほえましい過ち」みたいな感じに回収していただきたくは…なかったかなと…いう気は…いたしました…。

惜しかったのはそこだけです。全体としては、火村が少しずつ周囲に心を開きはじめている様子が見られたり、次回は地井の過去がらみでひと波乱が起きそうでもあり今後の展開にまだまだ注目したいです。