生きざま

オタクの生きざまなど

【ガチネタバレ版】ワンモア第五話感想

だいぶ折り返してきました。私は先行配信で全部見てしまった組なので最早フラットな感想を抱くことができないんですが、謎多き男・水野メイン回です。

 屋上のシーンや教室でのやり取りを見るに、空田・火村・水野のコンビ/トリオ芸が自然になって来て(とりわけ火村が)打ち解けている様子がわかります。実際のA.B.C-Z内だとこの三人組でこういう雰囲気になることがないので、なかなか貴重ではあります。

生徒のひとりでベトナム人のグエンからの熱望をきっかけに水野が運動会の開催に向けて奮闘するのが今回の主なストーリーです。定時制としての運動会(体育祭)は永らく実施されていないようで、開催に伴う各種調整ごとや備品の準備からのスタートとなります。全日制と共存している学校なので、合同で行ったりすればいいのでは?とか、別々にしても昼間の体育祭は開催しているだろうに夜だけ駄目なんていう事あるんだろうか…と、思っていましたが、もしかして定時制の生徒自体がしばらくおらず、この1年A組が入学してきて定時制コースが復活したのではという気がしてきました。

画面上に他の生徒や先生が出てこないとき、①作劇の都合で描かれてないだけ、②本当に存在していない、のパターンがありますが、全日制についてはさすがに生徒4人ってことはないはずなので①だと思います。定時制は微妙なところですが、②ではないかと考えると色々と納得がいきます。前回、地井の過去が明らかになりましたが、そこらの学生がさくっとスマホで検索した程度で出てくるネットニュースについて、何年も知られないままというのは若干不自然です。なので、地井も定時制の復活に伴いこの4月から轟高校に赴任してきたとすると、新しくきた奴何者?→とりあえずサーチ→記事発見がこの4~5月に起こったのも十分にありえる事です。また全日制の生徒からの(全員ではないにせよ)差別的な扱いも、身近に実際に定時制の生徒がおらず、過去からの伝聞が先行していたため相手もひとりの人間だという視点が欠けてしまっていたのかもしれません。この後の展開で、町内会長が『定時制は夜中に集まって酒飲んで騒いで…』というような印象を語る場面が出てきますが、本当にそういうヤンチャな人たちが存在していて全日制の生徒が直接被害をこうむるような立場であったら、犯人が誰だかわかるような嫌がらせはしないはずです。どういう仕返しを受けるかわかりませんからね。

6月8日月曜日に水野と空田から運動会の提案をしたときや、そのあとに職員室で地井と会話する水野は、おそらく何のモノマネもしていない(とはいえ服装は何らかのリスペクトなのかもしれませんが…)”素”の状態なのだと思われますが、それでもどこか『熱心な先生』を演じているような印象を受けます。偏見や思い込みにとらわれず、素直なものの考え方ができるのが水野の良いところだと思いますが、コミュニケーションの取り方がどうも「相手がこうしたら、こうする」というチャートをなぞっているかのようです。(そのため、時として相手にとって余計な一言や余計な行動をしてしまいがちです)地井がとにかく水野に対してやりすぎるな、出すぎるなと釘を刺すのは過去の手痛い経験もありますが、水野の『先生ロールプレイ』に無理をしているんじゃないか・いつか無理がくるんじゃないかという心配を抱いているからかもしれません。

ところで職員室でコーヒーを手渡すシーンで、五関くんの手の上にあるマグカップは小ぢんまりしてかわいらしいサイズに見えるのに、河合くんの手に渡った瞬間にちゃんとした大きさのマグに変わるのがトリックアートみたいでほほえましくなってしまいました。

地井がグラウンドの使用許可を取り付けてきたとわかってすぐに水野は近所の小学校を回って道具をかき集めてきます(道具すら全日制に貸してもらえないの、予算とか責任範囲の問題なのかよほど迫害されてる立場なのか…)。思いついたら即行動に移すのが水野の信条のようですが、「必要となれば考えてないでさっさと動く」という行動様式はどちらかというと河合くんのそれであるという印象です。

体育館の物置で備品の修理をする水野は、珍しくセリフの少ない演技ですが、表情だけでも色々な感情が伝わってきます。やりますと宣言したものの、改めて目にする仕事量の多さにやや心が折れてため息をつき、自らを奮い立たせて作業に戻る。生徒達が様子を見に来くるも、何が起こるかわかっていないような不安と戸惑いの顔。手伝ってくれるのだとわかり、安心した顔。短い間のこのやりとりに、むしろもっともらしい言葉を投げかけているときよりも水野の人間らしさを垣間見た感じがします。

前回、すれ違ったまま終わっていた風間と山崎ですが、捨てられていた風間の手紙を拾い、山崎に戻して事情説明をしたのは水野です。状況だけで見れば、「一方的に好意を寄せて盗撮してきた相手が、一方的に謝罪と告白の手紙を机に仕込んできた」となるので、風間に同情してフォローに回るのは普通に危険行為なのですが、山崎は風間をそれほど悪く思っていなく、手紙を捨てたのも不本意な部分があったというウルトラCが起きて水野の行動がプラスに作用します。水野はこういった「良かれと思って一般的にはデリカシーのないことをしてしまうも、結果的に良い方に転ぶ」というパターンが多い気がします。これもまた一つの才能なんでしょうか。

そして、もういい加減やめてあげては…となりつつも、またしても全日制の生徒三人によって完成しつつあった運動会の備品が壊されてしまいます。これが6月16日火曜日の出来事です。更に町内会長が難色を示したという理由で開催が白紙に戻ってしまいます。ところでここしばらく見ていなかった水野のモノマネですが、この時は『ごくせん』の赤ジャージを着ています。赴任初日も同じだったので、水野にとってごくせんはとっておきの時に身に着ける特別なペルソナなのかもしれません。

6月18日の木曜日になって、水野の口から運動会の中止が告げられます。この流れで水野が過去を語るのですが、「全てがそこそこで何者でもない自分がコンプレックスだったが、担任の言葉に心を入れ替えて頑張ったら周りの態度も変わり良い経験ができた。なので教師を目指した」という話、少々出来すぎているなという感想は抱いてしまいます。この話のキモはおそらく後半で、多種多様な事情をかかえて現役時代を過ぎてから高校に通っている生徒達に比べ、人生経験がない(と自分で思っている)事を引け目に感じていて、自分ひとりで何かを成し遂げてワンチャン取り返そうとしたけれど、そこまでの技量がないことに気が付いてしまった、という部分です。水野という人はおそらく、人から頼られることは大好きだけど、人を頼るのはとても苦手です。自己責任に毒されすぎているとも言えます。人の手を借りずに自分だけでどうにかしてしまおうとするので、空回り気味になってしまいます。彼にとってよかったのは、それで本当に一人でどうにかなってしまうスーパープレイヤーではなかったということです。それから、みんなの前で「やっぱりだめでした、ごめんなさい」ときっぱり謝れることです。水野が「めんどくさいけど、憎めないヤツ」という扱いを受けつつあるのは、こういうところが理由だろうと思います。

翌日に水野が登校すると、教室はもぬけの空です。彼の姿に心を打たれたのか、クラスの生徒達が町内会長を説得(というよりほとんど懐柔ですが)し、備品を修理し運動会の準備を進めていたのでした。この町内会長にしても、かつてのイメージ、それも本人が直接見たかどうかもあやしい印象をもとに定時制に不信感を抱いていただけだったようで、同世代の高齢者も含めた実際の生徒を前にすることで考えを改めます。「人は良く知らないものを攻撃したくなる」というのが、このドラマで繰り返し描かれていることの一つです。社会から見えないことにされてきた人たちがその存在を主張し、あたりまえに同じ生活をしてみせることで同じ権利があると認めさせるのが『ワンモア』というドラマです。

しかし、地井は一度目の町内会長宅を訪問した時もそうですし、二度目も生徒達にこのことを伝えるなどなんだかんだ水野の世話を焼いています。この面倒見の良いところが彼の本質であり、だからこそ付け込まれる隙でもあり、クールなふるまいというのはかなり無理をしている状態だったのではないかと思わせます。教師というのは生徒の手を借りなければ何もできないんだ、とつぶやく地井に、水野は生徒の手を借りれば何でもできるんですね、と言い換えます。正確に言うと同じ意味ではないのですが、水野が他人を頼っていいと理解したこの瞬間は、さりげないようでいてかなり重大な場面だと感じました。

無事に運動会も開催でき、空田は義両親とうまくいっているようだし、バイトだからと言っていた山崎も風間の応援に駆け付けます。リレーで勝って胴上げされた水野、おそらく「教師になったらやって欲しいことリスト」のかなり上位をクリアしたんじゃないのかなと想像しました。オクラホマミキサーでペアになった水野に「みんなの教師にはなれなかったけど、仲間にはなれた気がします」と言われた地井の笑顔がとてもいいですね。本当に心から良かったと思っているのと、ちょっとかわいいやつだなって思っているときの顔です。

さんざん嫌がらせをしていた全日制の生徒たちですが、律儀にも運動会を見に来ていたようで、校庭で盛り上がる様子に女子の相沢が「なんか楽しそうでいいな」とこぼします。男子生徒はそれぞれに戸惑いや苛立ちを見せますが、ほんの少しではあるものの変化の兆しが表れています。このドラマとは関係なく、少し前に見かけた教員らしき人のTwitterの投稿で、過去ことあるごとに強烈なクレーム(ほとんど脅迫)をつけてきていた保護者がいて、同僚がストレスから心身を壊し退職してしまったが、その後自分がその保護者の担任クラスになってみてわかったのはその人もまた何らかの助けを必要としている人だったという内容でした。困難な状況にあってもそれを適切に言語化できない人は少なくありません。彼らもまた、何らかの問題を抱えていてクラスから浮いた存在なのかもしれません。

全てがうまくいきつつあるかに見える第五話ですが、なんとまだ二話分あります。油断してはいけません。この後どう最後まで駆け抜けるのか、早くも次回予告が不穏な感じですが、見守っていきましょう。