生きざま

オタクの生きざまなど

【ガチネタバレ版】ワンモア第四話感想

こういう「考え事や調べた事をまとまった文章にする」みたいな作業をわりと久しぶりにやっているのですが、本当に話がとっ散らかっていて大学生の時ゼミの先生に論文めちゃくちゃダメ出しされたなってことを思い出しました。

今回はみんな大好き地井先生ことチーセン回です。

 地井先生を前にすると突然女子高生の人格でチー→セン↑って呼びたくなるじゃないですか(?)。33歳の河合郁人さんが学校の先生ってめっちゃ若いな~って思いましたが、そういえば私が高校3年生の時の担任の先生まだ30ちょいじゃなかったかな…とても若かったんだな…当時現役JKの自分たちにとっては30過ぎの男性など完全なるおじさんでしたが…。

『ワンモア』を観ていて、生徒役の人々やその他の登場人物に対しては「あ、定時制高校のドラマだな」ってフラットにみられるんですけど、地井や水野といった先生を前にすると不思議と自分が高校生だった時のことをよく思い出してしまいます。学校という舞台装置すごい。河合くんと五関くんのちょっと危うい若さも含めての先生力が現れているお芝居がすごい。

ということで前回からの続きシーンで不穏なスタートです。
同じことばかり言ってる気がしますが、子供はいい子すぎても悪い子すぎても「絶対なんかあるじゃん…」と気になってしまう方なので、この全日制の生徒3人組にあらゆる悪いイベントのフラグ立てを担わせるというのはあまり続くと「もういいのでは…」という気持ちになってしまいます。「良い人はずっといいやつ、悪い者はずっと悪いやつ」みたいな単純化はせずすべての人に破滅と救いがありうるのがこのドラマのいいところだと勝手に思っているので…。悪役に徹する立ち回りも、なくはないんでしょうが、ヴィランといわれるキャラクターって悪さと同じぐらい魅力的な部分も描かれるし、悪いことをするまでに本人なりの背景と理由があったりしますよね。そのあたりがまだ今一つ見えてないとこではあります。

教室の黒板の日付を見ると、各話で少しずつ時間が進んでいて、話の進行とともにクラス内が打ち解けてきている様子がうかがえます。全力で熱血教師をやる水野と、全力で答える空田の共犯的な茶番ぶりも板についてきました。茶番やおふざけの類をためらわずにやれるのは五関くんがわりと得意であり好きなことだと思いますが、素の塚田くんは割とそういった場面でちょっと引き気味の態度でいることが多いので、水野と空田の掛け合いは新鮮に映りました。

ところで水野の先生モノマネはモノマネというより「なりきり」の方が近いかもしれませんね。モノマネは対象の特徴的なところを抽出して第三者にわかりやすく見せるものですが、なりきりは演じる本人の中で納得がいっていればOKというかその部分がなりきりの本質ではないかと思います。人を楽しませるためにやっているのではなくて、自分が憧れの人と一体化したいからです。自分の中に「強くてかっこいい先生」の人格をたくさん住まわせていることが水野のお守りです。と言うと、水野本人は自信がなくシャイな人物なのかともなりますが、個別のやりとりを見るに必ずしもそういうわけでもないようです。

小ネタですが、風間が沖田の写真を発見するSNSTwitter…に限りなく近い『Whisper』というサービスですが、画面を見ると「ツイートする」「リツイート」などの言葉はそのままなので、わかっていてパクっているアングラよりコミュニティなのかもしれません。今時https化していないところも怪しいし。というのと、反社系の風俗店を利用している書き込み(それほどバズっているとも思えない)がRTで流れてくる風間のタイムライン、なかなかの多様性です。ゲーム仲間を中心にフォローしていると思えば、いろいろな人がいてもおかしくはないですし、現実の対人関係は苦手そうな風間ですが、ゲームではリーダーシップを発揮してすごい人数を率いたりしているのかもしれません。

このシーンもそうですが、橋本くんのセリフのない演技はとても表情豊かで状況が伝わりやすく、風間という人物の性格をちゃんとトレースしつつもチャーミングで見ごたえがあります。オタクの贔屓目な気はしつつも、彼に限らずA.B.C-Zのメンバーは「表情で見せる」「背中やたたずまいで見せる」お芝居がとてもうまいなと感じます。グループ全員で一つの演目をやることも多いため、メンバー同士で役になりきってのやりとりをするのに恥ずかしさやためらいを感じない訓練ができているということも大きいように思います。

職員室での水野と地井のやりとりで、地井のことを先輩として慕っている様子の水野に対し、地井は「俺がいい先生に見えるのか?」と問いかけます。それを聞いた水野が即答ではいと返し、地井は困惑します。誰の目にも明らかにやる気のないように振舞っていたつもりの地井の意図が全く伝わっていないことが明らかになったからです。前回の風間が教室で暴れたシーンもそうですが、他人の表層的な態度を全く意に介さず自分の取りたいようにとる水野の「空気の読めなさ」は、それ単体だとだいぶ厄介な性格のようにも思えますが、このドラマに出てくる人たちがだいたい何らかの屈折を抱えているがためにかえって救いになりうるというところが彼の存在価値でもあります。ワンモアに出てくる大人たちのほとんどは、必要以上に他人に介入せずものわかりのいい「普通の人」です。なので、水野がいないと物語が進みません。パニックムービーや終末世界で一番最初に死ぬと見せかけて、最後まで生き残りすごい重要な役をさらっていくタイプです。とはいえ水野のいっそ不穏な明るさ、見ているこちらの心をざわつかせますね。

この後、地井の過去の不祥事(実際には冤罪)が暴露されるのと、沖田が勤め先の風俗店を辞めるイベントが同時進行します。明確に現場は描かれていませんが、ネット記事を張り付けて地井に嫌がらせを仕掛けたのはたぶん例の全日制3人組ですよね。主人公側視点だと、なんて悪いやつらだ…と思ってしまいますが、彼らからしてみれば性犯罪歴がある教師が普通に別の学校で働いている方がよっぽどevilです。告発のやり方が最悪だとは思いますが、現代のインターネットではTwitterはてなブックマークでひとたび間違っていると判定された人間が正義マンからバチボコに叩かれまくる世界ですから、そういうのを見て育った若者が悪者を成敗して何が悪いの?と考えていても不思議ではありません。後日このイタズラにより生徒指導をされることになりますが、全日制の先生は本当に広い視点で彼らをフォローしてあげてほしい、ただ叱って終わりにしないでくれるといいなと願います。

地井の背中を押す人物として登場するのが、行きつけのスナックすず子のママです。若い男性に助言する年上女性というと、実家のお母さん代わりのような方向性に行ってしまいがちですが、すず子ママ(実際の名前がすず子かどうかわかりませんが…)はどちらかというと愛人っぽいたたずまいなのが絶妙で良いです。青年誌だったらママと地井は過去に寝てると思います。そのぐらいのヒリヒリする距離感です。それと泥酔した地井が自宅で水野へ文句を言う場面がありますが、立場から言っても別に面と向かって不満を言ったところで別に構わない(多少言い方を和らげるにしても)ような気もします。が、そこで水野に思い切り言うこともできない地井の性格が垣間見えます。面倒を避けたいのが半分と、新人とはいえ同世代か年上の水野が懸命に頑張っている姿に悪くも言えないという根の優しさが半分なんじゃないでしょうか。水野の先生モノマネに対しても辞めろとはひとことも言っていません。

そういえば沖田に店を辞めさせるために渡した手切れ金、こういう場合の相場理解がないので何とも言えませんが、厚さからして100万単位で入っているのではなかろうかという感じで、こんなにまとまった現金をいつの間に用意したんだろうな…という疑問は抱いてしまいました。風間にSNSを見せられてから、帰りにスナックすず子で泥酔し、自宅で我に返って沖田を迎えに行くまでが同じ日だと思われます。最近のATMはほぼ出金制限があります。コンビニは20万とかなので、何回にも分けて下ろしたのかな…手数料がもったいない…いやそんなこと言ってる場合では…と気になってしまいましたが、こんな日が来ることを考えて銀行の窓口が空いている時間に用意してあったということにしました。

元はと言えば、水野が「生徒達のことをもっと知りたい」と企画したホームルームですが、初回のテーマが地井の過去の事件になってしまいました。まああんなに大々的に嫌がらせメッセージを書かれてしまったので今さら隠してもしょうがないってことなのかもしれませんが、本人を目の前に調べてきました!説明します!とやる力業がえぐい。水野は水野で「前任校に行って直接話聞いてきました」とかシレっとすごい事言ってるし…。おそらくですが、1Aメンバーからしてもこんな程度で地井が改心して「ありがとうみんな…!」ってなるかと言ったら、ならないだろうなとは思っていて、一方で余計な事しやがってとより険悪になるリスクもありながら、ここで博打を打っておくことによって何かが変わるかもしれないという期待がクラス内に生まれたことが大きいように感じました。

あとは風間にインターネットくわしいよな、とか地井が自分の職場にも見回りに来ていただろうといいタイミングでいいパスを投げられる火村はかなり「周りとうまくやっている」レベルになっているし、そんなの必要ですか、と社長に吐き捨てていた最初の頃が嘘のような変わりぶりです。各回のメインとなる人物以外も、その裏で成長していることが感じられて物語に深みを与えています。

案の定というかこのホームルームを経ても地井の心が晴れることはなく、ひとまずは関わりを拒否する形で終わります。しかしながらこのドラマ、俺はバカだからという火村、自分が悪いという空田と朱里、生徒に狂言騒ぎを起こさせたのも自分の責任だという地井ととにかく全員が自罰的です。と思うと、そんな中でひとり「お前らみんなバカだ」って言えた風間は(水野とは別な方向性で)異質だし希望があるなと思いました。

最後のシーンで、「教師という仕事に夢を持つな、俺らは普通の人間だ、できない事の方が多い」という言葉、これをプロのアイドル職人をやっている河合くんに言わせることの凄味がありましたね。そんなことはない、証明して見せます!という水野、これはこれで一つの矜持です。し、地井は勝手にしろとは言いつつも、振り返って見えないところで微笑んでいるようにも見えます。不穏な中にもわずかに希望のあるエンディングとなり、起承転結でいうと転の部分に突入した感じがします。

全体として振り返ると、冒頭のシーンから風間がSNSで沖田を発見するまでが6月3日水曜日、地井のネット記事が黒板に貼られたのと沖田が店を辞めるのが6月4日木曜日、ホームルームが6月5日金曜日です。なんと今回のエピソードはたった3日の間に進行しているのでした。それならまあ、そんなに急に人は変わらないよね…という気もします。